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金沢地方裁判所 昭和44年(ワ)196号 判決

原告 池田浩二

〈ほか一二名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 菅野昭夫

右同 伊藤公

被告 日本国有鉄道

右代表者総裁 高木文雄

右訴訟代理人弁護士 鵜沢勝義

右訴訟復代理人弁護士 鵜沢秀行

右訴訟代理人 栗田啓二

〈ほか九名〉

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、昭和四四年三月三一日、原告らに対して行なった別紙目録処分欄記載の各懲戒処分は、いずれも無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、日本国有鉄道法(以下国鉄法という。)に基づいて設立された鉄道事業などを営む公共企業体であり、原告らはいずれも被告に雇用された職員であって、昭和四四年三月当時別紙目録勤務欄記載のとおりの勤務をし、かつ、国鉄動力車労働組合(以下単に「動労」という。)の組合員であった。

2  被告は、昭和四四年三月三一日、原告らに対して別紙目録処分欄記載のとおりの懲戒処分を行なった。

3  しかしながら、右各懲戒処分は無効であるから、原告らは被告に対し、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2記載の事実は認める。

三  抗弁

1  (懲戒処分の発令)

被告は、昭和四四年三月三一日、原告らに対して、別紙目録処分欄記載のとおりの懲戒処分を発令し、右懲戒処分は同日原告らに告知された。

2  (懲戒処分の正当理由)

被告は、昭和四二年三月三一日、「当面の近代化、合理化について」と題する合理化計画を提案したが、動労はこれを五万人合理化と称して反対し、違法な波状ストライキを繰り返してきた。本件は、右反対斗争の一環たる第六次全国統一行動として、昭和四三年九月九日から同月一二日にかけて実施されたいわゆる九・一二反合理化斗争である。

原告らは、右斗争に際し、後記のような行為をなし、よって、被告の業務を著しく阻害したから、被告は、原告らの右行為は日本国有鉄道就業規則六六条一七号に該当するものとして、国鉄法三一条一項一号に基づき、懲戒処分を行なったものである。

(一) 九・一二反合理化斗争の概要

(1) 動労は、昭和四三年八月一九日、東京目黒の動労会館において、第五七回臨時中央委員会を、翌二〇日には全国代表者会議をそれぞれ開催し、機関助士廃止等五万人合理化反対及び一〇月ダイヤ改正反対を目的として国鉄労働組合と共斗で第六次全国統一行動を実施すること、昭和四三年九月九日から同月一一日にかけて、全地本で支部総数の三分の一地区を指定し、四時間から二四時間の順法斗争を実施し、同月一二日には、名古屋、北陸、福知山、米子の各地本を中心として、関連する隣接地本を指定し、一二時間以上の第四波全国統一ストを行なうことをそれぞれ決定した。

(2) このため、動労北陸地方本部(以下「北陸地本」という。)は、右臨時中央委員会及び全国代表者会議の決定を実行に移すべく、同年八月二四日、金沢市内労働会館において、第四八回臨時地方委員会を開催し、同地本関係の斗争計画を討議した。そして、同月三一日には、同地本拡大執行委員会を開催して、右臨時地方委員会において決定された斗争計画に基づき、その具体的戦術を検討し、斗争指令第四号として、同地本内の下部機関に伝達した。右斗争指令第四号の内容は次のとおりである。

イ 時限ストライキ

(イ) 実施日時及び個所

九月一二日零時から一二時までの一二時間

拠点 敦賀第一機関区、同第二機関区

準拠点 福井機関区、七尾機関区、金沢運転所

(ロ) ストライキ参加者の範囲

ストライキ時間帯に該当する指定地区内の支部所属乗務員及び他区から指定地区に乗り入れ、折返しする乗務員

情勢によっては、指定地区内所属組合員で、指定地区外に乗り入れ中の乗務員についても、その行先地で指名ストライキを行なう。

(ハ) 動員

指定支部は全員、その他の支部は最大限動員を確保すること。

(ニ) 地本役員の配置

総括責任者 村田地本委員長

敦賀第一機関区 堀井地本副委員長

荒木斗争委員

江村青年部書記長

敦賀第二機関区 中田地本書記長

三浦斗争委員

小川斗争委員

吉沢青年部長

ロ 順法斗争

(イ) 九月九日午前五時以降、同月一二日正午まで

全組合員の安全作業、全乗務員の安全運転行動を実施する。

(ロ) 九月九日午前八時から正午までの四時間

第一波順法斗争を強化する。

拠点 敦賀第一機関区、同第二機関区、糸魚川機関区

(ハ) 九月一〇日午前八時から午後八時までの一二時間

第二波順法斗争を強化する。

拠点 富山第一機関区、同高岡支区、富山第二機関区

(ニ) 九月一一日正午から一二日正午までの二四時間

第三波順法斗争を強化する。

拠点 福井機関区、七尾機関区、金沢運転所

(3) そして、北陸地本は、同年九月五日、金沢市内において、支部委員長会議を開催し、

イ 斗争拠点以外の支部は、九月一二日、全乗務員の一割を目標に役員立会いのうえ、年休を請求し、休暇をとること

ロ 準拠点の拠点動員者以外の全乗務員の籠城戦術を実施すること

ハ この二戦術は、当局側の勢力を分散釘付けにする一方、拠点地区への助勤等を完全に排除するものであること

等の追加戦術を決定し、斗争指令第四号の二として同地本下部機関に伝達した。

(4) 九・一二反合理化斗争の実施及びその影響

動労北陸地本は、前記計画どおり、九月九日から一一日にかけて順法斗争を、一二日零時から正午にかけて一二時間ストを実施したが、その結果、金沢鉄道管理局管内では、別表(一)記載のとおり列車の運休等が生じ、被告の業務に著しい影響を与えた。

《以下事実省略》

理由

一  請求原因1、2記載の事実(雇用関係の存在及び懲戒処分の存在)は当事者間に争いがない。

二  抗弁1記載の事実(懲戒処分の発令)及び同2冒頭、(一)記載の事実(懲戒処分の正当理由、九・一二反合理化斗争の概要)中、欠勤者数及び金沢運転所において貨物列車一本が抑留運休になった事実を除くその余の事実は当事者間に争いがない。

《証拠省略》を総合すれば、九月一二日、入一仕業の始業が一時間四〇分遅延した(この事実は当事者間に争いがない。)ため、第七六四列車が森本駅で抑留運休になった事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右争いのない事実及び認定事実によれば、本件斗争の結果、被告の業務の正常な運営が阻害されたものと認められる。

三  抗弁2(二)(原告らの行為)について判断する。

1  《証拠省略》によれば、原告池田浩二、同河村勇、同久津見豊、同松田清良、同小西靖夫、同村田外治の懲戒処分事由は、昭和四三年九月一二日に行なわれたいわゆる九・一二斗争(以下本件斗争という。)に際し、これが斗争を指導するとともに、みだりに勤務を欠いて業務の正常な運営を阻害する等職員として不都合な行為があったことによることが、同じく、《証拠省略》によれば、原告矢島薫、同縄間保、同坂本勲、同瀬戸衛、同山口清嗣、同長谷川喜一の懲戒処分事由は、本件斗争に際し、みだりに勤務を欠いて業務の正常な運営を阻害する等職員として不都合な行為があったことによることが、さらに《証拠省略》によれば、原告野村初雄の懲戒処分事由は、本件斗争に際し、承認を得ずして勤務を欠いたことによることがそれぞれ認められる。右によれば、本件斗争の際の欠勤が全原告の懲戒処分事由となっていること、が明らかであるから、まずこの点について検討することとする。

2  原告らは、本件斗争に際しての各原告の欠勤は、正当な年次有給休暇請求によるものであると主張する。

原告らがいずれも被告に一年間以上継続勤務し、全労働日の八割以上出勤したものであること、三抗弁2(二)記載のとおり、年休の請求をして勤務をしなかったことは当事者間に争いがない。

しかしながら、年次休暇の権利は、労基法三九条一、二項の要件が充たされることにより法律上当然に労働者に生ずる権利であり、同条三項にいう「請求」とは休暇の時季の指定にほかならず、またその休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であるけれども、労働者がその所属する事業場の業務の正常な運営の阻害を目的として、一斉に休暇届を提出して職場を放棄、離脱するいわゆる一斉休暇斗争の場合には、それが当該事業場の全労働者によってなされるか、その一部分によってなされるかを問わず、その実質は同盟罷業であって、その性質上、一般の年休請求及びこれに対する使用者の時季変更権のような、業務の正常な運営を前提とした労基法上の制度をもってこれを律することはできない。

従って、この場合には、使用者側が労基法三九条三項の時季変更権を行使したかどうかにかかわりなく、労働者の休暇請求によっても年休は成立しないものと解するほかはない。

当事者間に争いのない前記九・一二反合理化斗争の概要によれば、原告らの各年休請求は、動労北陸地本の斗争指令第四号の二による一割休暇戦術に基づくものであり、右戦術は当局側の勢力を分散釘付けにする一方、準拠点地区への助勤等を完全に排除する目的をもっていたのであるから、各休暇請求及び欠勤は、当該休暇請求者の所属する事業場の業務の正常な運営の阻害を目的としていたものであり、その実質は同盟罷業にあたり、年休請求権の行使とは認められないものである。

この点につき、原告池田浩二は、九月一二日当日は年休であったと主張するが、《証拠省略》によれば、同原告は、昭和四三年九月七日までに鉄道病院発行の多発性腰筋痛の診断書を付して九月一二日の年休請求をしており、これが一たん承認されたのち、九月一一日午前零時四〇分頃、金沢運転所長において同原告が斗争を指導しているのを知ったため、この年休承認を取消し、軽勤務の就業を指示したことが認められるけれども、同原告の前記斗争指導の行動によってみると、診断書の内容にかかわらず、右年休請求は準拠点における一割休暇斗争の実行としてなされたものであるとする前記認定を左右するに足りず、その欠勤を年休として是認することができない。

そうすると、原告らの本件各欠勤は、前記処分事由にいわゆる承認を得ずして欠勤し、あるいはみだりに勤務を欠いたものに該当するものである。

次に、原告野村初雄を除く原告らに関し、欠勤以外の事実関係を判断する。

3  原告池田浩二について

同人が、動労北陸地本金沢支部執行委員長として、本件斗争を斗い抜く体制を固めるために、昭和四三年八月二八日、金沢運転所指導訓練室において、第二回支部委員会を開催したこと、右委員会の決定を全組合員に徹底させるために、翌二九日、金沢支部組合掲示板に、「重大時期を迎え、全組合員に訴える」との掲示を掲出したこと、九月三日、金沢支部事務室において、支部拡大執行委員会を開催し、ビラ貼り、安全運転、乗務員の籠城戦術等の斗争計画及び計画実施のための支部各役員の分担等を決定したこと、九月八日には支部指令第一号を、翌九日には同第二号をそれぞれ発し、「全乗務員に対し、九月九日午前五時から一二日正午まで安全運転行動をとること及び動員者以外の全乗務員は一一日午後八時に支部に集合すること」を指示し、支援動員者として組合員四三名を指名し、斗争拠点である敦賀第二機関区に赴き、斗争に参加することを命じたこと、掲示、ビラ、組合員の家族に対する書簡等により随時組合員に対して斗争への参加を呼びかけたこと、九月一〇日以降一二日にかけて勤務となる乗務員をして年休を請求せしめたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、本件斗争に際し、乗務員を久昌寺に収容せしめたこと、九月一一日、金沢運転所指導長室において、「敦賀がストに入った場合、他からの支援を阻止するのが準拠点の役目である。これでも控え目にやっているつもりだ。吾々としても十分考えたうえでやっていることである。助勤差し出しをすれば、斗争を強化せざるを得ない」旨申入れたこと、九月一三日、「九・一二斗争の集約に当って」と題する掲示を掲げたことが認められる。

以上の争いのない事実及び認定事実を総合すれば、原告池田浩二は、金沢運転所における斗争を実質的に指導したものと認めるのが相当である。

4  原告河村勇について

同人が、動労北陸地本敦賀第二支部委員長として、昭和四三年八月三一日、金沢市において開催された北陸地本拡大執行委員会に出席したこと、同年九月二日、敦賀第二機関区講習室において、支部拡大執行委員会を開催したこと、同月七日頃、「九・一二ストライキを成功させよう」との掲示を組合掲示板に掲出したこと、同月六、七、八日の三日間、同機関区講習室において、乗務員集会を開催したこと、同月八日午後六時四〇分頃、同日午後六時五〇分頃、同日午後八時二〇分頃、同機関区乗務員詰所において、乗務員に対し、斗争に参加するよう説得をしたこと、同月九日、同機関区事務所前において開催された総決起大会に出席して、組合員に対し、斗争参加を呼びかけたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、同人は、支部拡大執行委員会や乗務員集会において、中央本部及び北陸地本の指令を一般組合員に対して伝達し、周知徹底せしめたこと、本件斗争後、「九・一二斗争を終えて」と題する掲示を掲出したことが認められる。

右争いのない事実及び認定事実によれば、原告河村勇は敦賀第二機関区における斗争を実質的に指導したものと認められる。原告らは、本件斗争についての指導と責任はすべて中央本部から派遣された役員にあった旨主張し、証人村田外茂男の証言中にはこれに沿う供述が存在する。そして、原告河村勇本人尋問の結果によれば、柳沢中央執行委員が、九月六日、同機関区に着任後直ちに、同機関区長清水に対し、支部の執行権を停止する旨通告した事実を認めることができるが、その意味は、同尋問の結果によれば、支部執行委員長が独自の判断で活動することができなくなるというにすぎないことが認められるから、中央本部派遣役員の指揮のもとで、原告河村勇が同支部における斗争を具体的に指導したとの認定の妨げとなるものではない。

5  原告久津見豊について

同人が、動労北陸地本福井支部執行委員長として、八月三一日に開催された北陸地本拡大執行委員会に出席したこと、九月二日、福井機関区乗務員会掲示板に、「準拠点福井支部のスケジュール」と題して、同支部の斗争計画及び所属組合員は斗争に参加されたい旨を掲示したこと、九月六日、同機関区会議室において、約三〇名参加のもとに臨時乗務員会を開催したこと、九月七日から一二日にかけて、署名、掲示等により同支部の全組合員が斗争に参加するよう説得活動を行なったことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、同支部所属組合員の家族宛に九月三日付「御挨拶」と題する書面を送り、斗争参加の協力を呼びかけたこと、地本指令による一割休暇戦術を実現すべく、組合員に対し、年休請求を指示したことが認められる。

右争いのない事実及び認定事実によれば、原告久津見豊は、福井機関区における斗争を実質的に指導したものと認められる。

6  原告松田清良について

同人が、動労北陸地本七尾支部執行委員長として、地本指令第四号を実施すべく、七尾支部における斗争計画を立て、九月八日午前九時頃、「七尾支部、準拠点指定の指令を受く。支部組合員こぞって斗いに結集しよう」との掲示をだして一般組合員に団結を呼びかけたこと、九月九日午前一〇時一二分頃、支部役員ら六名とともに七尾機関区長室に赴き、同支部番匠書記長をして、同区長に対し、「本日午前五時から一一日いっぱい順法斗争」と通告せしめ、同区長の「責任者は誰か」との問に対し、「支部委員長松田清良」と答えさせたこと、九月六日頃から指導機関士に対し、斗争参加への協力を要請し、ビラ貼り、デモ等をなさしめたこと、九月一一日午後六時から同機関区事務室前広場において、共斗総決起大会を開催して、「機関助士廃止反対斗争を最後まで斗う。」旨挨拶をしたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、支部所属組合員の家族宛に「御あいさつ」と題する書面を送り、斗争参加の協力を呼びかけたことが認められる。

以上の争いのない事実及び認定事実を総合すれば、原告松田清良は、七尾機関区における斗争を実質的に指導したものと認められる。

7  原告小西靖夫について

同人が、動労北陸地本敦賀第一支部書記長として、九月一日、敦賀市協調会館において開催された支部活動者会議に出席したこと、九月八日から一一日にかけて、敦賀第一機関区乗務員詰所、更衣室及び組合事務室等において、出務してくる乗務員に対し、スト参加を呼びかけたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》及び原告小西靖夫本人尋問の結果によれば、八月三一日に開催された北陸地本拡大執行委員会に出席したこと、九月一一日、乗務員詰所において、仕業から帰着した川畑機関士及び上野機関助士に対し、斗争に参加するよう説得をしたことが認められる。

右争いのない事実及び認定事実を総合すれば、原告小西靖夫は敦賀第一機関区における斗争を実質的に指導したものと認められる。なお、同本人尋問の結果によれば、土居中央執行委員が、九月八日、同機関区に着任後直ちに、同機関区長に対し、支部の執行権を停止する旨通告したことが認められるが、これが右認定の妨げとならないことは前叙のとおりである。

8  原告村田外治について

同人が、動労北陸地本七尾支部執行委員兼乗務員会会長として、九月九日、乗務員会の掲示板に乗務員会長名で、「安全運転を実施されたい」旨の掲示をだしたこと、翌一〇日にも、同様、「EL・DL一人乗務絶対反対、最後まで斗おう」旨の掲示をだしたこと、九月六日頃から指導機関士に対して斗争参加を呼びかけたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、支部所属組合員の家族あてに「御あいさつ」と題する書面を送り、斗争参加の協力を呼びかけたことが認められる。

右争いのない事実及び認定事実を総合すれば、原告村田外治は、七尾機関区における斗争を実質的に指導したものと認められる。

9  原告矢島薫について

同人が動労北陸地本敦賀第一支部執行委員として、九月一日、敦賀市内協調会館において開催された支部活動者会議に出席したこと、同所での決定に基づいて、九月三日頃、同市内土手長旅館に交渉して乗務員を収容する宿舎を確保し、九月八日、北野機関士宅においてスト参加の説得をし、九月一〇日から一二日正午頃まで土手長旅館で責任者として乗務員との連絡にあたったことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》をあわせると、北野機関士の妻に対し、組合に協力しないと輸血してやらない趣旨のことをいったこと、土手長旅館において、宿から出ようとする者にも用件をきき、旅館の回りに鉄道公安官がきているということで乗務員らを外へ出さないようにしていたことが認められる。

10  原告縄間保について

同人が動労北陸地本敦賀第一支部執行委員として、九月一〇日午後三時頃、藤本機関助士宅を訪れてスト参加の説得をしたこと、同日午前七時から午後七時五〇分頃にかけて、敦賀第一機関区乗務員更衣室付近において、乗務員に対しスト参加の説得をし、翌一一日も午前零時頃から午前一〇時三〇分頃までの間、同機関区乗務員詰所又は組合事務所前において乗務員に対し同様の説得をしたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、藤本機関助士方では、「今次斗争には一一日の者も皆が参加している。もう残っているのはお前だけだ」といったことが認められる。

11  原告坂本勲について

同人が動労北陸地本青年部副部長として、九月九日午後八時頃から一〇日にかけて、敦賀第一機関区の組合事務室又は乗務員詰所付近において、右時間帯に機関車に乗務する乗務員に対し、スト参加を呼びかけ、九月一一日午後一〇時二五分頃、乗務員更衣室において、帰着乗務員に対し小田支部委員長がスト参加説得中、同室の入口にいたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、九月一〇日午後三時から一一日午前六時まで自宅予備勤務のところ、争いない事実のとおり年休請求して拒否され、九仕業(午後三時三分出勤)に充当する通知があったのに、勤務につかなかったことが認められる。

12  原告瀬戸衛について

同人が動労北陸地本敦賀第二支部組合員として、九月一一日午前六時九分頃、敦賀駅中二番ホームにおいて、五〇二列車の乗務員居川機関士に対し斗争参加の説得をしたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、被告が九月一〇日午後一〇時四五分頃、同機関区首席助役室前において、土田機関士、真木機関士を、九月一一日午前三時頃坪塚機関士、松浦機関助士を、同日午前四時三〇分頃柴田機関助士を、それぞれ代務要員として保護するため自動車で宿舎に向わせようとした際、原告山口清嗣らとともに右自動車の進路をふさぎ、これを妨害したことが認められる。

13  原告山口清嗣について

《証拠省略》によると、同人が動労北陸地本敦賀第二支部組合員として、原告瀬戸衛らとともに前記のとおり三回にわたり被告の使用する自動車の進路をふさぎ、これを妨害したことが認められる。

14  原告長谷川喜一について

同人が動労北陸地本金沢支部執行委員として、九月一一日、米原地区拠点に支援動員者として赴き、同日午後五時三〇分頃から翌一二日午前四時三〇分頃までにわたって、金沢運転所所属の五〇四M、二〇〇二D、二〇四M、二〇〇二M、五〇六M列車の各乗務員に対し、斗争参加の説得をしたことは当事者間に争いがない。

15  以上の認定事実によると、原告池田浩二、同河村勇、同久津見豊、同松田清良、同小西靖夫、同村田外治は、本件斗争に際して欠勤したのみならずその斗争を指導したものであり、原告矢島薫、同縄間保、同坂本勲、同瀬戸衛、同山口清嗣、同長谷川喜一は、本件斗争に際して欠勤したのみならず、斗争を実効あらしめるため他に対する説得その他斗争を実効あらしめるための行為をしたものであり、さらに原告野村初雄は本件斗争に際して欠勤をしたものであることが明らかである。

四  以上の認定事実のもとで、被告の原告らに対する懲戒権行使の相当性について検討する。

1  本件斗争の結果、金沢鉄道管理局管内において、三抗弁2(一)(4)記載のとおり列車の運休等が生じ、被告の業務の正常な運営が阻害されたことは理由二で示したとおりである。

2  ところで、公労法一七条一項前段は、「職員及び組合は、公共企業体等に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。」旨規定しているが、右規定は、同法の沿革、その立法目的(同法一条によれば、同法は、国家の経済と国民の福祉に対する公共企業体の重要性に鑑み、公共企業体の正常な運営を最大限に確保し、もって公共の福祉を増進し、擁護することを目的とする。)、第四章において争議行為を禁止する代わりに、第六章において公共企業体とその職員との間に発生した紛争の解決方法として、あっせん、調停及び仲裁の制度を設け、ことに仲裁委員会の裁定に対しては、当事者は、双方とも最終的決定としてこれに服従しなければならない(同法三五条)こととした同法の構造、その文言等に照らせば、業務の正常な運営を阻害するものであるかぎり、その態様の如何を問わず、一切の争議行為を禁止したものと解するのが相当である。そうだとすると、公労法一七条は、公社等の職員について、憲法二八条の保障する団体行動権のうち争議行為の自由を制限することとなるが、公労法一七条一項に違反した者に対して、同法一八条に定める解雇あるいはその他の民事責任を伴なう態様で争議行為の禁止をすることは、憲法二八条に違反するものではないと解するのが相当である(最高裁判所大法廷昭和四一年一〇月二六日判決、刑集二〇巻八号九〇一頁、同裁判所大法廷昭和四八年四月二五日判決、刑集二七巻四号五四七頁の趣旨参照)。原告らの公労法一七条の効力に関する主張は、結論において違憲に結びつくという点において当裁判所としては採用できないものである。

もっとも被告を含めた公社等の職員の争議権に関しては、すでに関係機関において検討中であることは公知の事実であるけれども、将来の立法の問題としては格別、現行公労法のもとでは、原告らの本件斗争は同法に違反する違法な争議行為に該当するといわざるをえない。

3  原告らは、仮に公労法一七条の規定が合憲だとしても、国鉄職員の争議行為ことに本件斗争に同法を適用することは憲法二八条に違反する(いわゆる適用違憲)旨主張するけれども、その立論が前提とする限定解釈は当裁判所の採らないところであるうえ、本件斗争が公労法一七条一項違反の争議行為に該当することは前叙のとおりであるから、右主張は採用の限りでない。

4  次に、国鉄法三一条一項は、「職員が左の各号の一に該当する場合においては、総裁は、これに対し、懲戒処分として免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。」旨規定し、その一号には、「この法律又は日本国有鉄道の定める業務上の規程に違反した場合」を挙げている。そして、成立に争いのない乙第一号証の三(日本国有鉄道就業規則)によれば、その六五条一七号において、「その他著しく不都合な行いのあったとき」を懲戒事由としていることが認められる。そこで、原告らについて右懲戒事由が存するか否かにつき考察するに、原告池田浩二、同河村勇、同久津見豊、同松田清良、同小西靖夫、同村田外治においては本件斗争に際して前記欠勤をしたほか斗争指導の行為により、原告矢島薫、同縄間保、同坂本勲、同瀬戸衛、同山口清嗣、同長谷川喜一においては斗争に際して前記欠勤をしたことにより、それぞれ被告の業務を阻害したものであり、原告野村初雄においても、斗争に際して前記欠勤をしたことにより、事実上本件斗争に基づく前記業務阻害に参与したものであって、程度の差はあっても、その行為はいずれも被告の就業規則に定める「著しく不都合な行いのあったとき」にあたるということができる。

原告らは、公労法一七条一項違反者に対しては、同法一八条による解雇のみが許されるにすぎず、集団的労働関係における争議行為に対して、個別的労働関係における服務規律違反としての懲戒処分を課することは許されない旨主張するけれども、公労法一八条の趣旨は、同法一七条の規定に違反した職員に対しては、各種身分保障に関する規定にもかかわらず、これを解雇しうるというにとどまり、解雇するかどうか、その他どのような措置をとるかについては、職員のした違反行為の態様、程度に応じ、公共企業体の合理的な裁量に委ねるものと解するのが相当である(このような解釈は、一切の争議行為を禁止した同法一七条の趣旨にも合致する。)から、同法一七条違反行為が国鉄法及び就業規則の懲戒事由にも該当すると認められる場合には、使用者は、これに対し、懲戒権を行使することが許されるというべきである。そして公共企業体の職員については争議行為をすること自体が禁止されているのであり、右禁止に違反して争議行為をすることはとりもなおさず、公共企業体の企業秩序をびん乱することになるから、これが集団的労働関係である故をもって、懲戒権の発動が許されないと解さなければならない合理的理由は見いだしがたい。原告らの主張は争議権が保障されていることを前提としてのみ容認されるところであるから、右主張は採用しがたい。

5  そこで、本件懲戒処分が懲戒権の濫用に該るかどうかについて判断する。

(一)  本件斗争が、被告が昭和四二年三月三一日に提案した「当面の近代化、合理化について」と題する合理化計画に反対して行なわれたことは当事者間に争いがない。《証拠省略》を総合すれば、動労は、被告の合理化計画なかんずくEL・DL一人乗務問題に対して、安全輸送の観点から基本的に反対を表明し、昭和四三年三月三一日以来、本件斗争に至るまで二〇数回に及ぶ団体交渉が開かれた。右交渉の中で、被告は、組合側の釈明要求により、提案の趣旨、一人乗務実施計画、一人乗務に伴う運転保安の問題、具体的労働条件等についてメモによる説明を行い、一人乗務の段階的実施に向けて協議、説得を試みたが、動労側の納得をうるに至らず、論議は安全性の問題をめぐって併行線をたどった。この中で動労は被告側の早期実施の方針に強く反発し、数波の全国統一斗争を構えてこれに対処したが、本件斗争はその第六次行動として実施されたものである。本件斗争後の昭和四三年九月一七日、組合側は被告に対し、安全性を裏付けるために、医学的、心理学的、工学的見地より検討することを提案し、被告がこれに応じたため、同月二〇日、(1)懸案のEL・DL乗務の安全問題については、別に設ける委員会に依頼する。(2)委員会から答申された内容は尊重し、労働条件については団体交渉で決める旨の合意が成立し、一〇月一八日、「EL・DLの乗務員数と安全の関係についての調査委員会」(略称EL・DL委員会)が発足した。右委員会は、同日以降一五回に及ぶ委員会を開催し、岡山―広島間における実地調査等を経て、昭和四四年四月九日、「国鉄においてもEL・DLを一人乗務にする客観的条件は熟している。平均的な条件を備えた岡山―広島間における一人乗務の生理的負担調査、夜間の生理的負担の諸調査などからみて一人乗務は生理的限界を越えるものではない。事故率についても一人乗務の場合に多くないことからみて、安全について基本的な危惧のないことを示唆している。したがって、二人乗務を一人乗務に切り換えつつ、それを前提とした種々の施策を実施してゆくことを、現在の国鉄の基本方針にすべき時期にきている。」旨の調査報告書を提出した。ところが、この報告書の内容について、一部の学者から疑義が表明されたこともあって、動労は、前記の合意にもかかわらず、一人乗務の実施に反対したが、被告は、右報告書を受けて、五月一二日、具体的実施計画を提示し、組合と種々交渉を重ねた結果、一一月一日、原則として一人乗務を実施することで最終的な合意に達し、漸次実施に移された。

以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実のもとで、本件斗争の動機、目的の正当性について考察するに、一人乗務の安全性については、学者の間でも議論の分れる問題であったことが認められるから、被告としては一人乗務の実施に当ってはその安全性について十分の説明を行ない、組合の納得をうるよう努力を傾注するのが相当であったと思われる。しかしながら、結果的には原則として一人乗務を実施することで問題の決着がはかられたことに照らせば、本件斗争は、原告らの生存権を確保するための切実かつ必要やむをえない動機から敢行されたものというよりは、交渉を有利に導びくための被告に対する牽制として実施された色彩が濃厚であり、原告らが主張する程の正当性を肯認することはできない。

(二)  弁論の全趣旨によれば、本件斗争による金沢鉄道管理局管内の運休列車キロは、九月一一日において五三一・五キロ、九月一二日には六九八・五キロであり、管内における一日の設定列車キロ約六万三〇〇〇キロに対して一%内外のものにすぎなかったことが認められるが、《証拠省略》によれば、右程度の影響にとどまったのは、被告において代務要員等を充当し、列車ダイヤの確保に尽力したためであることが認められる。

(三)  《証拠省略》によれば、九・一二斗争のスト拠点のあった名古屋鉄道管理局管内における列車の運休は合計五四本であり、その他に多数の列車の遅延を出したこと、これに対し、地本副委員長、書記長、拠点支部委員長各一名が解雇、地本専従者一名が停職一二か月、地本役員二名が同六か月、拠点支部委員長三名が同四か月、副委員長以下の支部役員、スト参加組合員らは減給六か月から一か月の処分を受けたこと、なお、九・一二斗争の際スト拠点であった福地山局管内では、七名が停職九ないし一か月、一一五名が減給三ないし一か月、一名が戒告の処分を受け、同じく米子局管内では、二名が解雇、一三名が停職一二ないし一か月、二七一名が減給三ないし一か月、二九名が戒告の処分を受けたこと、その他、動労北陸地本が行なった昭和四二年九月二七日の斗争、同四八年春斗、同年九月二五日、同五〇年三月二七日の各斗争、あるいは、一部通勤列車を険く全面運休もしくは運休列車数二一九六本に及ぶ昭和四九年、同五〇年の春斗などの斗争を通じてみると、支部委員長、支部書記長級の組合員には、解雇処分を受けた者もあるが、停職一二ないし三か月にとどまった者もあること、支部におけるそれ以下の地位の組合員では、停職七ないし一か月、あるいは減給、戒告の処分を受けていることが認められ、これによると、本件斗争に対する金沢鉄道管理局管内の処分は、九・一二斗争に際しての名古屋鉄道管理局あるいは福地山、米子各管理局管内の処分より全体的にやや重い感があり、動労北陸地本が実施した他の斗争のうち昭和四九年及び五〇年各春斗の処分と対比しても、この春斗の列車運休本数が極めて多いことを参酌すると、本件処分が相対的にやや重い感があることは否定できない。

(四)  原告池田浩二、同河村勇、同久津見豊、同松田清良、同小西靖夫、同村田外治の具体的行為の態様、程度は前記認定のとおりであり、いずれも各区所における斗争を実質的に指導したものにあたる。しかしながら、当事者間に争いのない九・一二反合理化斗争の概要によれば、右原告らは中央本部及び北陸地本の指揮、指令のもとに具体的指導行為を実施したに過ぎないことが認められる。

(五)  《証拠省略》によれば、本件処分があったため、原告らは昇給関係において一時的に一号俸ないし四号俸の不利益を受けたが、いずれも昭和四九年四月一日までに是正昇給され、減俸分を回復したことが認められる。したがって、処分の影響が停年退職時に及ぶとする原告らの主張は理由がない。

(六)  以上によってみると、原告らが本件斗争の行為に及んだ動機、目的について前記のように十分な正当性を認めることができないこと、前記認定の右各原告の行為の内容、本件斗争に際しては、被告において代務要員等の充当その他列車ダイヤの確保に尽力したのにかかわらず、争いのない事実及び認定事実のとおり敦賀第一機関区、第二機関区、さらには金沢運転所関係で旅客列車、貨物列車あわせて二六本が運休となるなどの広範囲な業務阻害が現実に発生したことなどを考えると、本件斗争において一般刑罰法規に違反するような行為のあったことは認められないこと、運休列車キロは管内の一日の設定列車キロの約一%内外にとどまったこと、右原告らのうち斗争指導をした者も、動労中央本部及び北陸地本の指揮、指令のもとに、これを行なったものであることなどを考慮しても、これら原告らに対する本件各懲戒処分が苛酷に過ぎるとか、裁量権の範囲を逸脱したものであるということはできない。そして、右処分は、前記認定の一部の処分の事例よりも全体としてやや重い感があるけれども、詳細にみるときは、前記のとおり右事例においても拠点支部委員長が解雇あるいは停職一二か月の処分を受けた例があり、その他の組合員らが相当長期の停職処分又は本件と同程度の減給処分を受けた例も存在するのである。元来、懲戒権の行使は裁量行為であり、合理的な範囲を逸脱しない限りこれを裁量権の濫用として違法、無効とすることはできないことからすれば、これら他の事例との比較においても、右原告らに関する各処分がその濫用にあたると断定することは到底できない。

五  結論

以上のとおり、原告らに対する本件各懲戒処分はこれを無効とすべき理由がないから、原告らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上孝一 裁判官 加藤光康 裁判官高柳輝雄は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 井上孝一)

〈以下省略〉

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